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福岡地方裁判所 昭和39年(ワ)722号 判決 1965年3月25日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対して五一四、〇〇〇円及びこれに対する昭和三九年八月一八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

(一)被告は昭和三八年一一月一〇日頃その所有にかゝる小松製、D五〇S、一〇型、車両番号九、四四七、ブルドーザ一台を訴外有限会社立花重機に賃貸し、原告は同年一二月三日訴外会社の依頼によつて右ブルドーザの主クラツチオーバーホール外合計五一四、〇〇〇円相当の修理をしたところ、同会社は未だに右修理代金を支払わない。

(二)  一方被告は訴外会社に対して建設機械を売渡していたところ、右会社において代金を支払わないので被告は右売買契約を解除し、それと同時におそくとも翌昭和三九年二月頃までに同会社から本件ブルドーザの返還を受け、同年五月頃、一、七〇〇、〇〇〇円をもつて他に転売した。

(三)(1)  右修理は被告が本件ブルドーザを訴外会社に賃貸した後必要を生じたものではなく、賃貸以前から必要なものであつたから、右修理によつて被告所有のブルドーザは右修理代金相当の価値を増大し、被告はこれが返還を受けたことによつて右相当の利得をし、転売代金の一部として尚現存している。

(2)  勿論原告は訴外会社に対して修理代金債権を取得したものであるが、その行使をする暇もなく右会社は修理後二ケ月余にして倒産し、現在無資産であるから回収の見込みは全くなく、したがつて右債権は全く無価値であつて原告は右修理代金相当の損害を受けた。

(3)  右被告の受益と原告の損害との間には因果関係がある。

即ち(イ)被告は本件ブルドーザを賃貸当時修理の必要なことを予見し、或は予見し得べきものであり、果して訴外会社は貸借後旬日余にして修理を依頼したこと、(ロ) 右修理後二ケ月余にして被告がブルドーザの返還を受け、これは本件ブルドーザの賃貸借上の原因に基くものではなく、被告が訴外会社に売渡した他の機械代金の不履行を理由とするものであり、訴外会社の倒産は被告の右行為が原因となつていること、(ハ)、原告が訴外会社の倒産前修理代金債権の行使をしなかつたからといつて責められるべきではなく、被告が原告に通知することなくブルドーザの返還を受けたため原告の先取特権の行使が阻害されたこと。

以上のような事実をも勘案して実質的に本件をみれば受益と損害との間には少なくとも社会通念上因果関係が認められるべきである。

(4)  被告の受益は原告との関係において法律上の原因に基かない。被告と訴外会社間並びに同会社と原告間に如何なる法律関係があろうと不当利得における受益の法律上の原因というのは受益者と損害を受けた者との間の法律上の原因をいうものであり、したがつて被告の受益は原告に対する関係では法律上の原因を欠如する。

(四)  以上のとおりであるから被告は法律上の原因なく五一四、〇〇〇円の利益を得これがため原告に右相当の損害を及ぼしたものであるから、右不当利得金及びこれに対する訴状送達の翌日たる昭和三九年八月一八日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ。と述べ、

立証(省略)

(一)  原告主張事実(一)のうち本件ブルドーザの修理代金がいくらであつたか又回収されたかはどうかは知らないがその余は認め、同(二)のうち被告が原告主張の頃ブルドーザの返還を受けたことは認めるがその余は否認し、同(三)(四)はすべて争う。

(二)  (1)仮に被告が若干の利益を受けたとしても原告は訴外会社に対して本件修理代金債権を取得したのであるから損害を受けていない。

(2) 仮に被告が受益をし、原告が損害を受けたとしてもその間には因果関係がない。即ち判例の必要とする直接の因果関係は勿論、有力な学説である公平の理念により社会通念によつて因果関係の有無を決すべしとの説にしたがつても本件の如き場合には因果関係は認められない。

(3) その上原告は訴外会社との請負契約に基き修理したものであるから法律上の原因による出捐をしたものであり、一方被告は訴外会社との賃貸借契約において賃貸物件の修理費は訴外会社が負担する旨の特約が存在したものであるから被告の受益は原告に対する関係においても法律上の原因を欠くものということはできない。

(4) 原告は本件ブルドーザにつき留置権を行使し得たに拘らずその利益を放棄し自ら訴外会社に対する一般債権者たるの地位に甘んじたものであり、一方被告も訴外会社に対し多額の債権を有するものであるところ、一般債権者間には優劣はないとの債権法上の原則に照らしても原告に不当利得の返還請求権を認めるのは公平に反して許されない。と述べ

立証(省略)

理由

(一)  被告が昭和三八年一一月一〇日頃その所有にかゝる原告主張のブルドーザを訴外有限会社立花重機に賃貸したこと、原告が同年一二月三日頃訴外会社の依頼によつて右ブルドーザを修理したこと、被告が昭和三九年二月頃訴外会社から本件ブルドーザの返還を受けたことは当事者間に争いがなく、証人高橋吉春の証言に同証言から真正に成立したものと認められる甲第一ないし三号証を綜合すると、右修理代金は合計五一四、〇〇〇円であり、右代金は未だに回収されていないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  原告は被告が法律上の原因なく原告の損害において修理代金相当の利益を得た旨主張するので考える。

(1)  先づ前記争いのない本件ブルドーザの賃貸から修理までの期間、証人高田実の証言から認められる賃貸前のその保管状態等を併せ考えると原告のした修理は本件ブルドーザの自然の損耗に対するものであつて、被告はその返還を受けたことによつて右修理代金相当の利益を得たものと認めるのが相当である。

(2)  つぎに原告が右修理によつて訴外会社に対して右五一四、〇〇〇円の修理代金債権を取得したことは明らかであるけれども、証人高橋吉春、同高田実の各証言によれば訴外会社はその後間もなく倒産して原告の右債権の回収は極めて困難な状態になつていることが認められるので、原告は右回収不能の限度において損害を受けたものといつて差支えない。

(3)  そこですゝんで右受益と損害との間の因果関係の有無につき検討する。本件において原告の受けた損害というのは訴外会社の倒産による修理代金の回収不能によるものであることは前述のとおりである。原告は被告が本件ブルドーザの返還を受けたことが訴外会社の倒産に格別の原因を与えたかのように主張するがこの事実を認めるに足りる資料はなく、かえつて証人高田実の証言によると被告が返還を受けたのは訴外会社が倒産した後のことであることが認められる。何れにしても原告の損害を受けたことゝ訴外会社の倒産との間には因果関係は認められるけれども、被告が修理されたブルドーザの返還を受けて利益を得たことの間には社会通念上も因果関係を見出すことはできないものといわざるを得ない。而して原告が(二)(3)で主張するような事情が仮に認められるとしても右の結論を動かすことはできないものと解する。

(三)  叙上のとおりであるから原告のその余の主張につき判断するまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却を免れず、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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